2012年2月5日日曜日

平成23年度税制改正について 「平成23年度税制改正大綱」の主な措置

⑴ 納税環境整備
① 納税者権利憲章の策定
国税通則法第1条の目的規定を改正し、税務行政において納税者の権利利益の保護を図る趣旨を明確にするとともに、国税通則法の名称を改正後の法律内容をよく表すものとなるよう変更する。また、複雑な税務手続を納税者の目から見て分かりやすい形でお知らせするため、納税者が受けられるサービス、納税者が求めることのできる内容、納税者に求められる内容、納税者に気をつけていただきたいことを、一覧性のある形で、平易な言葉を使って簡潔・明瞭に示すとの考え方に沿って、「納税者権利憲章」を策定する。
② 税務調査手続
調査手続の透明性と予見可能性を高める観点から、税務調査に先立ち、課税庁が原則として事前通知を行うことを法律上明確化する。ただし、課税の公平確保の観点から、税務署長等が、正確な事実の把握を困難にするおそれがあると認める場合等には、事前通知を行わないこととする。
③ 更正の請求
実務慣行として行われてきた「嘆願」を解消する観点から、納税者が申告税額の減額を求めることができる更正の請求の期間を5年に延長する(現行1年)。あわせて、課税の公平の観点も踏まえ、課税庁による増額更正の期間を5年に延長する(現行3年)
④ 処分の理由附記
処分の適正化と納税者の予見可能性の確保の観点から、全ての処分について理由附記を実施する。ただし、個人の白色申告者に対する理由附記については、記帳や帳簿等保存義務の拡大と併せて実施する。
⑤ その他
以上のほか、年金所得者の申告負担の軽減、租税罰則の見直し、法定調書のIT化などの措置を講ずる。
⑵ 個人所得課税
① 給与所得控除の見直し
給与所得控除については、「勤務費用の概算控除」と「他の所得との負担調整のための特別控除」という二つの性格を有しているものとされている。現在の給与所得控除は、給与収入に応じて逓増的に控除が増加する仕組みとなっているが、給与所得者の必要経費が収入の増加に応じて必ずしも増加するとは考えられず、主要国においては定額又は上限が設けられている。こうした事情を踏まえ、給与収入が1,500万円を超える場合の給与所得控除について、245万円の上限を設けることとする。
給与所得控除は、法人役員の給与にも適用されているが、役員は一般従業員に比べ勤務態様が必ずしも従属的でなく、また、給与の自己決定度合いが高いと考えられる。こうした事情を踏まえ、高額な役員給与については、給与所得控除のうち「他の所得との負担調整」を見直すこととし、具体的には、4,000万円超という特別に高額な役員給与については、「勤務費用の概算控除」部分である、給与所得控除額の2分の1の額を上限とする。なお、給与収入が2,000万円を超え4,000万円までの間では、「他の所得との負担調整」部分の一部を認め、調整的に徐々に控除額を縮減する。
これらの給与所得控除の見直しと併せ、勤務費用の実額控除である特定支出控除について、納税者に使いやすくする観点から、見直しを行う。
② 退職所得課税の見直し
退職所得については、現在、長期間にわたる勤務の対価であること等を踏まえて、退職所得控除額を控除した残額の2分の1を所得金額とする「2分の1課税」が行われている。
しかし、法人役員等の中には、給与の受取を繰り延べて短期間で高額な退職金を受け取り、税負担を軽減する事例があると指摘されており、このような場合には、一般従業員の退職金とは相当に異なる事情にあることを踏まえ、勤続年数5年以内の法人役員等の退職所得について、2分の1課税を廃止する。
③ 成年扶養控除の見直し
成年者は、本来、基本的に独立して生計を立てるべきと考えられ、現在のように成年者を一律に扶養控除の対象に位置づける必要性は乏しいと考えられる。このため、担税力に配慮すべき世帯については負担増とならないよう措置した上で、それ以外の場合については、成年扶養控除を廃止する。
④ 金融証券税制
現行の上場株式等の配当・譲渡所得等に係る10%軽減税率については、公平性や金融商品間の中立性の観点から、20%本則税率とすべきであるが、景気回復に万全を期すため、2年延長し、平成26年1月から20%本則税率とする。これに伴い、非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得の非課税措置(いわゆる「日本版ISA」)の導入時期については、平成26年1月からとする。
⑶ 資産課税
① 相続税
相続税の基礎控除は、バブル期の地価急騰による相続財産の価格上昇に対応した負担調整を行うために引き上げられてきたが、その後地価は下落しているにも関わらず、基礎控除の水準は据え置かれてきた。このため、相続税は、亡くなった人数に対する課税件数の割合が4%程度に低下しており、最高税率の引下げを含む税率構造の緩和も行われてきた結果、相続税の再分配機能が低下している。こうした中で、相続税の再分配機能を回復し、格差の固定化を防止する観点から、地価動向等を踏まえた基礎控除の水準調整をはじめとする課税ベースの拡大を図るとともに、税率構造について見直しを図る。
具体的には、基礎控除を現行の「5,000万円+1,000万円×法定相続人数」から「3,000万円+600万円×法定相続人数」に引き下げるとともに、高額の遺産取得者を中心に負担を求める観点から、最高税率を現行の50%から55%に引き上げるなどの税率構造の見直しを行う。また、死亡保険金の非課税措置については、「相続人の生活安定」という制度趣旨の徹底の必要性や他の金融商品との間の課税の中立性確保の要請等を踏まえ、算定の基礎となる法定相続人の範囲を縮減する。他方、未成年者控除・障害者控除については、物価動向や基礎控除の見直し等を踏まえ、引き上げる。
② 贈与税
以上のような相続税の見直しと併せ、子や孫などが受贈者となる場合の贈与税の税率構造の緩和、受贈者に孫を加えるなど相続時精算課税制度の対象範囲の拡大を行い、高齢者の保有資産の若年世代への早期移転を促し、消費拡大や経済活性化を図る。
⑷ 法人課税
① 法人実効税率の引下げ・中小法人に対する
軽減税率の引下げ
デフレから脱却し、日本経済を本格的な成長軌道に乗せていくため国内企業の国際競争力強化と外資系企業の立地を促進し、雇用と国内投資を拡大することが喫緊の政策課題になっているとの観点から、国税と地方税を合わせた法人実効税率について、「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)の方針の下、課税ベースの拡大等により財源確保を図りつつ、引下げを行う。
具体的には、普通法人の基本税率を25.5%に引き下げるとともに、租税特別措置である特別償却や準備金等の廃止・一部縮減を行うほか、法人税法上の措置である減価償却制度の償却速度を主要国並みに見直し、大法人について欠損金の繰越控除を一部制限する等の措置を講じる。これにより、法人実効税率(国税 + 地 方 税( 注 ))を、現行の40.69 % から35.64%に引き下げる。このほか、平成22年度末に期限切れを迎える中小法人に対する18%の軽減税率についても、15%まで引き下げるなどの見直しを行う。
(注)  東京都の場合
② 雇用促進税制等
雇用を増加させた企業を支援する雇用促進税制、成長分野である環境分野への投資を促進するための税制措置、国際的な企業立地競争の中で我が国の魅力を向上させる税制措置を講じる。
具体的には、雇用の受け皿となる成長企業を支援するために、雇用を一定以上増やした企業に対する税制上の優遇措置を創設するとともに、先進的な低炭素・省エネ設備への投資に対し、税制上の優遇措置を講ずる。また、我が国全体の成長を牽引し、国際的に競争優位性を持ちうる大都市を対象とする国際戦略総合特別区域における成長産業や外資系企業等の集積を促進するため、税制上の支援措置を創設するとともに、グローバル企業のアジア地域統括拠点や研究開発拠点等を呼び込むための税制上の支援措置を創設する。
⑸ 地球温暖化対策のための税の導入地球温暖化防止のための温室効果ガスの削減は、我が国のみならず地球規模の重要かつ喫緊の課題となっていることに鑑み、広範な分野にわたりエネルギー起源CO2の排出抑制を図るため、全化石燃料を課税ベースとする現行の石油石炭税にCO2排出量に応じた税率を上乗せする「地球温暖化対策のための課税の特例」を設ける。
具体的には、原油及び石油製品については1kl当たり760円、ガス状炭化水素は1t当たり780円、石炭は1t当たり670円の税率を上乗せする。導入に当たっては、急激な負担増とならないよう、税率を段階的に引き上げることとする。
⑹ 市民公益税制
認 定NPO法人への寄附について、草の根の寄附を促進するため、所得税において新たに税額控除を導入し、所得控除との選択制とする。具体的には、寄附金額の40%を税額控除できることとし、個人住民税と合わせて50%までの税額控除を可能とする(控除限度額は、所得税額の25%)。また、公益社団法人、公益財団法人、
学校法人、社会福祉法人及び更生保護法人についても、草の根寄附を必要とする「新しい公共」の担い手として、市民との関わり合いが強く、かつ、運営の透明性が確保されている法人を税額控除の対象とする。
「新しい公共」の枢要な担い手となるNPO法人の健全な発展のための環境整備を図るため、新たな認定制度が整備されるまでの間の対応として、 事業収入の多いNPO法人でも、幅広く市民の支持を得ているのであれば認定を受けられるよう、パブリック・サポート・テスト要件の見直しを行う。具体的には、「寄附金額が年
3,000円以上の寄附者の数が年平均100人以上」との基準で判定する方式を導入する。
併せて、適切な税制上の事後的是正措置を整備する観点から、認定NPO法人のみなし寄附金について、認定取消しがあった場合には、取消しの原因となる事実のあった事業年度まで遡った取戻し課税を行うこととする。
⑺ その他
① 租税特別措置の見直し
法人実効税率の引下げに伴う課税ベースの拡大措置に加え、税制を納税者の視点に立って公平で分かりやすい仕組みとする観点から、租税特別措置について引き続き徹底した見直しを行い、政策税制措置について109項目の見直しを行い、その結果として、50項目を廃止又は縮減する。
② 改正増減収
「大綱」に盛り込まれた各般の措置による改正増減収見込額の合計は、平年度▲646億円、初年度▲3,061億円となる。


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